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〜おさむクリニック新聞から〜
  
5.原点としての在宅医療
(おさむクリニック新聞2000年 新春号より)

  突然話は変わりますが、早いもので開業して6年近くになります。最初の1〜2年はいったいこの先どうなるのだろうという不安な思いで過ごし、次の2〜3年はこれなら何とかやって行けそうだとほっと胸をなでおろしながら何も考えずに前進し、最近は1日の短さを呪いながら、いったい自分はこのままの状態でずっと日々を重ねていって良いのだろうか、という疑問を感じていました。もちろん毎日は色々な出来事で刺激的ですが、大きな意味でのマンネリに陥っているような、何か大きな波に飲み込まれてしまいそうな、自分の居場所が良くわからないような、そんな漠然とした不安を感じていました。

 最近一人の患者様が御自宅で亡くなられました。入院をかたくなに拒絶し、自らご自宅での最期を希望され、私に最期を看取ってほしいと依頼されました。もちろん、今までにも多くの方を御自宅で看取らせていただきましたが、これほどはっきりと自ら口に出して面と向かって頼まれた方は初めてだったように思います。

 結局その方の脈をとっての最期を見届けることは出来ませんでした。ご家族の連絡を受けてうかがった時にはすでに亡くなられていたのです。しかし、これこそが、その方が生前から望まれていた最期だったように思えるのです。亡くなられる前日にも私に念を押すように入院したくないこと、最期をみてほしいことをお話されました。家族を帰して、たった一人で、誰にも迷惑をかけない配慮をして旅立たれました。安堵とやすらぎをたたえた表情に、きっと前日にはこの方はすべてが分かっていたのだと感じました。この方らしいすばらしい最期だと思いました。

 ふと自分のことに置き換えて考えてみました。私とてすでに40歳を越えていますし、いつ何時命を落とすような病気にならないとは限りません。自分がもしも今、余命いくばくも無いと宣告されたらどうしたいか…。たぶん、出来るだけ普段通リの生活を送りながら、最期は自宅で過ごしたいと思うでしょう。きっとこの方のように。

 様々なアンケート調査の結果では、癌などの不治の病気にかかった時、最期を過ごす場所として、6割以上の方が在宅を希望されています。(病院を希望される方は1〜2割にすぎません)ところが、実際には病院で最期を迎える方が85%で、癌の場合はなんと93%の方が病院で亡くなられています。昭和26年にはまったく逆で、自宅で亡くなる方が8割を超えていました。患者様の希望をかなえるといった意味では現在より50年も昔のほうが進んでいたのかもしれません。

 自らの希望に反して自宅で最期を迎えられない原因はどこにあるのでしょうか。まず、社会の様々な変化が考えられます。人口の大都市集中や核家族化、大病院指向により、いわゆる「かかりつけ医」と家族ぐるみの関係が希薄になっていること。開業医の高齢化傾向が著しいこと。在宅死の経験者が少なく、家族に介護の自信が無いこと。女性の社会への進出(これはこれで大変良いことだと思います)により、介護力が不足していること。高齢化による高齢者が高齢者を介護せざるを得ない(共倒れになりかねない)状況などなど。
 この様な現状を突然変えることは出来ないでしょう。大病院での高度先進医療はもちろん必要ですし、医療の進歩は大切なことです。しかし、自宅で最期を迎えたいという方があれば、一人でも多くの方の希望にそえるように最善を尽くして行くことも、これからの医療には求められているのではないでしょうか。
 もし、自分が患者の立場になったらと考えたときに、こうしてほしいと希望する医療や介護、それを皆様に提供して行くのがこれからの私の努めだと考えます。とくに、在宅医療は開業時からの当クリニックの柱の一つであり、在宅での医療や自宅での最期を希望される方にとっての最善のサービスを提供したいと思っています。

 いま、生きている限り必ず死は訪れます。死は悲しくつらいものですが、自分の意志で演出することが出来るのです。私たちは少しでもそのお手伝いが出来ればと思っています。
 日々の忙しさの中で、つい見失いそうになっていた原点としての在宅医療。一人の患者様の、自らの意志で演出された尊厳ある最期に接して、自分の進むべき方向を再確認することが出来ました。



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